FEMAによるWTC調査報告の概要

(FEMAのサイトより抜粋)


 2001年9月11日に発生したワールドトレードセンター(WTC)ビルヘのテロ攻撃の直後、米連邦緊急

事態管理庁(FEMA)と米国土木学会の構造部会(SE1/ASCE)は、ニューヨーク市やその他の連邦機関

、専門機関と連携し、WTC周辺の建物の性能を調査するために、土木、構造、防災の各分野の技術

者を派遣した。

 ニューヨークヘのテロ攻撃直後の出来事は史上最悪の建物災害とされ、米国内における単一の

建物崩壊による死亡者数としては最大規模になったWTC内にいたと推定され5万8000人のうち、

403人の救助隊を含む2830人は事件発生当日に命を失った。2機の旅客機がハイジャックされ、110

階建ての2棟のビルに1機ずつ衝突した。衝撃によって各ビルの受けた構造被害は、その後に発生

した火災と複合して、建物の全壊という結果を招いた。ビルが崩壊すると、破砕した建物の構成

材を含む重量物や粉じんが周辺の建物に落下し、衝突した。これによって、さらに大規模な付随

的な被害を引き起こし、場合によっては出火とそれに伴う崩壊となった。全体では、10棟の主要

な建物が全壌か部分崩壊に至り、WTC内の1200万平方フィート(約110万u)を含む約3000万平方フ

ィート(約280万u)のオフィススペースで業務を中断した。

 この調査の目的は、今回の一連の出来事によってもたらされた被害を調査し、データを収集し、

影響を受けた複数の建物の応答についての理解を発展させ、所見された要因を判別し、実施され

るべき研究を特定することだった。各ビルヘの航空機衝突の即時の影響、墜落に伴う火災延

焼、火災による構造物の強度の低下、そして各ビルの崩壊に結ぴついたメカニズムを調査した。

ビルがテロ攻撃を受けると、局所的な崩壊を含む広範囲な構造被害が、航空機の直接衝突した

複数階に発生した。この甚大で局所的な被害にもかかわらず、2棟の建物はしばらく耐え続けた。

しかし、複数の航空機が建物に衝突すると同時に、搭載されていたジェット燃料に点火した。こ

燃料の一部はただちに、衝突された階で起きた巨大な爆発の中で消費されたが、残った燃料は

床やエレベーター、設備シャフトに流出して出火したため、建物の上部全体に大火災が発生した

。延焼に伴い、火災は鉄骨構造物をさらに弱体化させ、最終的に全壊という結果を招いた。

 ビルの崩壊は、構造物をよく理解している専門家を驚かせた。直後には、ニューヨーク市当局が

今回の悲劇に対する理解を得るために広範囲の説明を行った。しかし、これらの象徴的な建物の

崩壊は、複数の被害を受けたビルに、同一ではない、複雑な出来事が伴っていた。

原因を見定めるために、FEMAとASCEは、高層建物設計の専門家、鉄骨と溶接技術の専門家、火災

や突風に関する技術者、そして構造調査や解析の専門家で構成されたビル性能調査(BPS)チームを

組織した。

 調査チームはWTCや救助の現場を視察した。メンバーは移動しながら、崩壊した構造物のサンプル

を検査した。また目撃者や、影響を受けたすべての建物に関係した設計者、施工者、維持管理者

を含む人々にインタビューを実施した。さらに建築関係書類を検討し、WTCの被害の分析を行った

情報と時間を活用しても、各ビルの崩壊に結ぴつく出来事の過程を最終的に見定めることは難し

いと思われる。しかし、次の所見と発見事項がなされた。テロ攻撃の結果、2棟の建物が受けた構

造被害はそれぞれ甚大だった。構造がこのレベルの被害を受けながらも長時間にわたって耐え続

けたという事実は、注目に値すべきものであり、建物内にいた多数の人が安全に避難できたこと

につながった。この種の出来事は相当な被害を生じるが、設計の際には一般的に考盧されない。

また、これらの構造物が今回のような被害にも十分に耐えるという性能は注目すべきものだ。

 損傷した構造物の予備的な分析は、構造物が長時間を耐え続けたという事実とともに、次のこ

とを示唆する。暴風や地震といったほかの大きな荷重ではなく、ある重大な付加的な荷重を受け

るまで、建物は被害を受けた状態で存続できた。しかし、構造物は次の瞬間、航空機衝突によっ

て引き起こされた火災による大きな同時多発荷重を受けた。

航空機に搭載されていた大量のジェット燃料は、各建物への衝突によって出火した。この燃料の

大部分は、直後に発生した大爆発の中でただちに消費された。残りの燃料は、建物を通って下へ

流れたか、航空機衝突から数分内に気化して燃焼したと考えられる。このジェット燃料の燃焼か

ら発生した熱自体は、構造物が崩壊を始める重要な原因ではないようだ。しかし、燃焼したジェ

ット撚料は建物の複数階の床に広がりながら、建物内の多くの家具や什器に撚え移った。

 複数階で同時多発火災を引き起こしたれらの火災からの熱エネルギーは、大きな発電所によ

って生産される電カに匹敵すると推測される。この熱は数十分間にわたって構造フレームの軟化

と弱体化を同時に進行させながら、損傷を受けた構造フレームに付加的な応カを発生させた。

この付加荷重とこれによってもたらされた損傷は、2棟のビルの崩壊を引き起こすのに十分なも

のだった。

 即時に崩壊せずに航空機衝突に耐えた2棟の耐カは、設計・施工特性の直接的な要素であり、衝

撃の影響と衝突によって引き起こされた火災が複合して崩壊に至るのは、2棟の脆弱性によるもの

だった。ほかの設計・施工特性を備えた多くの建物は、2棟と比較してこれらの出来事で崩壌する

ほど脆弱だったかもしれないし、それほど脆弱ではなかったかもしれない。建物の設計や施工の

法令への適合性を評価すること、あるいはこれらの特徴の妥当性を判断することが、この調査の

目的ではなかった。しかしこの調査の間に、建物の構造特性と耐火特性を検討した。今回の調

査は、標準以下のものとして扱われるある特殊な構造特性については明らかにならなかったが、

実際には設計や施工の多<の構造特性と耐火特性が法令の最低条件より優れていることが判明した。

 可能な限り建ち統け、建物内の多くの人が避難できたことにつながったいくつかの建物設計上

の重要事項となる特徴が確認された。下記の通りである。

・鉄骨架構形式の頑健性(ロバストネス)と冗長性(リダンダンシー)

・非常誘導灯の設置された適切な避難階段

・テナントに対する緊急避難訓練の遂行

 同様に、衝撃を受けた階とそれより上の階にいた犠牲者が、安全に避難できなかったことや

彼らの行動を阻害するような崩壌を起こした可能性のある設計特性が、いくつか確認された。

しかし、これらの特性は、設計の欠陥または将来の建築法規の中で禁止事項として扱うべきでは

ない。むしろ、これらは今回の建物やほかの建物でどのように挙動するかを理解するために、も

っと詳細に評価されるべき特性だ。

下記に列挙する。

・ほかの構造形式と比較した場合の、今回の建物に使われている鉄骨床トラス

 形式とそれらの構造的頑健性と冗長性

・避難経路の周囲に設置された衝撃抵抗壁(耐カ壁)

・突風や衝撃のような危険に対して抵抗するように設計された耐火抵抗カ

・構造物全体に非常階段を分散するのでな<、建物の中心部に非常階段を集約

したこと

 この調査の間に、これからの建物を今回のような攻撃にもっと強くなるように、建築法規を変

更するべきかどうかという問題は、頻繁に検討した。航空機のサイズによるが、すべての構造物

が崩壊することなく、高速で飛ぷ航空機による衝撃の影響とそれに続いて起こる火災に抵抗する

ように設計・施工する条件を設定することは、技術的に実現不可能かもしれない。

 さらに言えば、そのような構造物の施工費は非常に大き<なるので、 この種の設計目的を

実現するのは不可能だ。

WTCビルに対する攻撃は設計思想に疑問を投げかけることになったが、建築法規にそのような条件

の考慮を勧めるような、特定の建物に対する攻撃の可能性があるかどうかを決めるには、データ

が不十分だと調査チームは考えている。任意の特定の建物に対しては、今回のような攻撃の可能

性は全く考慮されない<らいに十分に低いという意見を持つ人もいる。しかし、個々のビルデベロ

ッパーは、特にそれらの設計や利用者の性質によっては、そのような不測の事態に対して冗長性

や頑健性を改善する設計対策を考慮したいと思うかもしれない。火災や衝撃損傷にさらに抵抗し

、建物利用者の避難をより助けられる建物をつ<るように建築法規の概念をい<つか変更すること

は可能だが、調査チームは任意の特定の法令を変更する前に、これらの概念に関する技術的、思

想的、経済的な研究を行うべきだと考えている。

この報告書は、特にそのような追加の研究を勧めている。崩壊やほかの建物応答に関する技術上

の詳細な内容が一段と解明された中で、将来の建築法規の改訂に考慮されるかもしれない。

 

(以下の図面、FEMAのサイトより抜粋)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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